このプロジェクトは…
北海道岩見沢市で2009年から始まったアート・プロジェクト「ZAWORLD(ザワールド)」。3年目となる2011年は岩見沢ならではのコミュニティについてアートを手がかりに考えていきます。
まずは3月に「ZAWORLD3.0」を開催。炭鉱の後背地であり、鉄道輸送の拠点であった岩見沢の今昔を「ZAWAZAWAスポット」をキーワードにさぐっていきます。 以前の記事
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岩見沢とアート 北海道岩見沢市は札幌の北東、電車で40分ほどのところにある。人口は約9万人。かつては東北最大の操車場を擁した交通の要衝だったが、現在は流行は札幌、安いものは郊外店へと客足は流れ、中心市街地はすっかり寂れている。 そんな中、20代のひとりの女性が、「岩見沢をアートあふれる住みよい街にしていきたい」との思いから、アートを盾に怖いもの知らずの体当たりで、商店街や観光協会、大学や行政を次々に巻き込み、既存の組織ではできなかったであろう「風」を起こしつつある。 ことの起こりは、08年のはじめに行われた、商店街の空き店舗を使ってのグループ展である。数年前から北海道教育大学の芸術過程は岩見沢校に統合され、芸術系の学生が集う町になっていた。それら学生によるグループ展の企画・運営に参加したのが、当時、札幌の会社に勤めていた遠藤歌奈子である。 グループ展終了後、遠藤は会場となった空き店舗を借りてアート・スペース「iwamizawa90°(イワミザワキュウマル)」の運営を開始することを決意、行政に直談判し、賃借料の補助金を獲得する一方、商店街の了解を取り付け、アーケードの老朽化した柱約100本を3ヶ月かけてピンク色に塗りなおす「ペイントホリディ」や、中心市街地活性化会議と連携し、商店街のシャッターに学生の手を借りて絵を描く「まちいっぱいアート計画」などを矢つぎ早に実行に移した。「まちいっぱいアート計画」は1年で10軒ほどが完成。好評で注文は後を絶たないという。 アート・プロジェクト「ZAWORLD」 遠藤は09年夏、次の企画に乗り出した。アート・プロジェクト「ZAWORLD(ザワールド)」である。「ZAWORLD」は大きく分けて、二つのプログラムからなっている。映像作家の大木裕之とコミュニティ・アートの門脇篤という招聘アーティストによる一週間のレジデンス・プログラムと、札幌在住の似顔絵画家・黒田晃弘をはじめ、広い意味での地元アーティストによる商店街を使った展示プログラムである。 むしろ国内よりも海外での評価が高い大木裕之は高知在住。脳内映像をそのままコラージュしたような独特の映像世界で知られ、社会の枠にほとんどとらわれることのない破天荒な日常行動も圧巻である。一方の門脇篤は宮城在住。アーティストとは思えない常識派として知られ、積み上げ型のコミュニケーションや誰でも参加できるワークショップを駆使した作品に定評がある。このふたりの役割は「他者」としての存在にあったと言える。 大木は、岩見沢がロケ地のひとつであるドキュメンタリー「メイ」の制作6年目に入っており、今回はさらに本プロジェクトを機に新作「コイ」の制作に入るという。観客はいっさいのストーリー性を排した、非常に特異な他者の目を通して岩見沢を注視させられることとなった。上映後、北海道教育大で映像を学ぶ学生たちからは、大木に対し非常に活発な質問がよせられ、その内容からは上映が非常に大きなインパクトを生み出したことがうかがい知れた。「コイ」「メイ」の制作は今後、長期にわたって行われることが予想され、本プロジェクトや学生たちにも影響を与えつづけていくものと思われる。 門脇は、岩見沢が赤レンガの街であることから、これをモチーフにワークショップ形式の作品制作を行った。プラスティック・ダンボールをレンガ状にしたものに好きなことを描いてもらい、これで「城」をつくるのが当初の企画であったが、会期最後の週末に重なっていた岩見沢市最大の祭り「百餅祭り」に対して遠藤が行った交渉がとんとん拍子に成功し、祭りメイン会場でワークショップや制作を行ってよいばかりでなく、「みこし」をつくって最大の山場であるホンモノの神輿かつぎの前座として通りを練り歩いてはどうかという提案まで引き出した。門脇作品は、その独特の素人感あふれる世界を盾に、既存のコミュニティに入り込んでいくためのツールとしてうまく「利用」されることを待っており、遠藤はこうした門脇のねらいをうまくつかんで既存の組織に切り込んでいったと言える。企画は大好評で、すでに「来年も何かおもしろいことを」との声があがっている。 まちいっぱいアート展 岩見沢の喫茶店、居酒屋、米屋、ギャラリーなど15箇所に、地域で活動を展開する作家・学生約50名が関わる展示が行われた。 iwamizawa90°2階ギャラリーに展示された、横浜トリエンナーレ作家・黒田晃弘の似顔絵は、岩見沢市長や商店主、住民など、岩見沢に住む30名あまりを訪ね、コミュニケーションを重ねながら制作されたものである。 同スペース1階では石倉美萌菜・太田博子・小坂祐美子によるユニット「××(ちょめちょめ)ラビリンス」によるインスタレーションが展示された。実在のイケメン男子に写真を撮らせてもらい、彼との恋愛関係を軸にしたフィクション世界を作品化したもので、昨年から取り組んでいるシリーズである。 和田家具店に展示されたスクラップアートは、自身スクラップ美術館を持つM.ババッチによるもので、ほとんど違和感がないほどに店に溶け込んでいた。他の多くの展示もこうした店に溶け込んだものが多く、いずれも今回の展示場所に合わせて制作を行ったわけではないとのことから、展示作家と展示場所とのマッチング段階で周到な準備が行われたことがうかがわれる。店側からの反応としても、「非常に店にマッチしたものを選んでもらってうれしい」という声が多く聞かれた。 その一方で、展示作家との接触が少なかった店舗では、「もう少し足を運んでほしかった」といった反応も見られた。こうしたコミュニケーション不足による不満は、逆に言えば店側からの期待度の高さを示しているわけで、今後への課題として活かしていきたい点である。 IWAMIZAWA ART MEETING NIGHTとNIPPON ART PRIJECT展 レジデンス期間中、門脇による各地でのプロジェクト型のアートの取り組みに関する事例報告が行われた。「IWAMIZAWA ART MEETING NIGHT」と題された席には20名ほどが出席し、苦労話やこぼれ話のほか、なぜこうした取り組みが今必要なのかが説かれた。 同時に、JR岩見沢駅内の市施設である「有明交流プラザギャラリー」では、「NIPPON ART PROJECT展」と題して、日本各地のアート・プロジェクトを大きな地図で一望できるようにするとともに、それらを運営する団体からパンフレットやチラシなどを送ってもらい、来場者が気軽に持ち帰れるようにした。 岩見沢ではじまった取り組みを相対化する、こうした視点は非常に重要なものである。 プロジェクトのもたらしたもの プロジェクトを終えて、遠藤は「今回は総花的だった」と振り返る。 「展示場所にせよ、可能な限り広げ、結果的にこの街ではどこまでできるのか、その範囲をさぐることができた。正直、ここまで街がアートを受け入れてくれるものだとは思いもよらなかった。来年はもっと絞り込んでいきたい。そして岩見沢でしかできないことをやりたい」 実はこれまで彼女自身、「百餅祭り」を「ちゃんと見ていなかった」という。年齢的にも「地域のダサい祭り」程度に感じていたのかもしれない。その彼女が、アート・プロジェクトを通して地域コミュニティと一緒になり、祭りを「発見」したこと、これこそが、アートを通じたコミュニティ再生・再発見のモデルだろう。 「アートという“回路”がなければ、おそらく私は自分の生まれ育ったこの街についてあまり知ることもなかっただろうし、ここまで多くの人と関わることもなかったと思う。そしてそれは多くの岩見沢の人にとっても同じ。何らかのきっかけでこんなにも大きく自分の環境を変えることができるということを、もっと多くの人にも体験してもらいたい」 岩見沢という不思議な懐の深さを持つ街に、遠藤歌奈子という底知れぬバイタリティをもった人材が出現することで、人が集まり、今、確実におもしろいことが始まりつつある。
by iwamizawa09
| 2009-11-22 00:03
| 岩見沢アートホリディ
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